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溶けないインスタントコーヒー

学生時代、家庭教師のアルバイトをしていた。

商業高校志望の真面目な中3男子。

妹と両親、それにお婆ちゃんの5人家族。
私が行く日は、3部屋しかない平屋のアパートの広い方の2部屋が何故か指導部屋にと差し出された。他の4人はキッチンを兼ねた奥の部屋で、静かに指導が終わるのを待っているようだった。ひそひそ声さえも聞こえない。4人がその狭い部屋で2時間もの長い間どのようにして待っていたのか。家庭教師が来る日は特別な日だったのだろう。

ある夏の暑い日のこと。

アイスコーヒーを出してくれた。
インスタントコーヒーの粉がうまく溶けていないアイスコーヒーだった。

当時のインスタントコーヒーには「アイス用」などというものはなかった。
コーヒーの粉に冷たい水を注いで、氷をすぐに入れてしまうと、コーヒーの粉は「だま」となりうまく溶けない。そんな、状態のまま必死にかき混ぜて出してくれたのだろう。

飲み進めても、一向に「だま」は溶けず、舌にまとわりつき、氷にへばりついた。

少量のお湯で粉を十分に溶かしてから、氷を入れて冷やせばアイスコーヒーはうまくつくれる。
普段、アイスコーヒーなどつくらない人が、慣れない手つきでつくったアイスコーヒーだったのだろう。
きっとお婆ちゃんが、急きょつくってくれたものだろう。

若い家庭教師の先生だからコーヒー、暑いからアイスコーヒーだろうということで。

お婆ちゃんの慣れないアイスコーヒーづくり。

私のため、そして、孫のため。

舌にへばりついたコーヒーの粉の苦みが嬉しかった。

気の遠くなるほど昔の真夏。
10月も末の今日、突然思い出したこと。


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プロフィール

齊藤塾塾長 齊藤茂

Author:齊藤塾塾長 齊藤茂
渋川高校卒業後、代々木ゼミナール(教務課)に3年半勤務。4年目の9月より浪人生活を送り、翌年4月に群馬大学教育学部に入学。卒業後、藤岡市、前橋市の大手進学塾にて前高、前女、高高、高女進学コース、附属中クラスなどを担当。平成9年に出身地の東吾妻町矢倉にて齊藤塾を開塾。以来トップ校受験生の指導にあたる。

合格実績(2012年~2020年までの合計)前橋高校4名、前橋女子高校8名、高崎高校5名、高崎女子高校7名、群馬高専5名、渋川高校20名、渋川女子高校17名、高経附高校3名、前橋育英S4名(中学受験については初年度からの合計で中央中等8名、佐久長聖中8名それぞれ合格、大学受験については、群馬大、埼玉大、茨城大、信州大、新潟大、静岡大、早稲田大、慶応大、津田塾大、東京女子大、明治大、法政大、成城大、東洋大、獨協大等多数合格・詳細は下のホームページからどうぞ)

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